最初は確かに興味本位でした。Momentumの500もあるファンドリストの中から、一番下げたもので、かつ現在でもしっかり運用が続いているもの、という条件であれこれ探してみただけです。しかし、このファンドには非常に大きな価値があることがわかりました。第一には勉強材料として、かつ投資対象としてです。

勉強材料としての検証をしてみましょう。基準価額が何かのキッカケで突然大きく下がるファンドには一つの共通した特徴があります。それは株式や債券、コモディティ、為替、金利など取引のある大きな金融マーケットが投資対象ではないことです。流動性のあるファンドではこのようなことはまず起こりません。例外にダイトンASPがありますが、あれは厳密に言うと流動性が潤沢にあるはずのUSDCHF相場に突如全く出合いがなくなったためであり、突然、無いはずの流動性リスクが発生した珍しいケースです。

他にも、不動産ビジネス系ファンドならば、誰でもその投資対象である不動産が金融商品でないことは知っています。ライフセトルメント系では保険証券という金融のようで金融でないものが対象ですので、購入時にはしっかりとした理解が必要です。アセットバック証券などはカテゴリーとしては金融商品ですが、中途売却が難しく、すなわち流動性はありません。

例えば、ドミニオンのように、母国では極めてまともなファンド会社で、FTfmに基準価額が毎週掲載されており、なかなか成績のよいファンドがあるにもかかわらず、日本だけは最低の評価をうけている場合もあります。これはドミニオンのファンド群のなかでも突出して流動性リスクの高いファンドだけをピックアップし、販売の媒介を行なっていた一次代理店の不誠実、いや虚偽の説明によって、リスク不知の購入者が多くいたことが原因です。このようにファンドに内在していた流動性リスクが顕在化した時にはじめて大騒ぎになります。

流動性リスクというのは、個人投資家には見えづらいものがあります。いえ、一般投資家は理解できなくて当然です。この教訓からも、オルタナティブ投資の場合、チューリップやパームのようなマネージドフューチャーズなど完全に流動性リスクの無いもの以外を購入する場合、銘柄選択よりもアドバイザー選択の方がはるかに大事だということがわかります。

一方で、最初から流動性リスクがあると明言している訴訟対策ファンドは、3年間解約できなことを最初から告知しているところが正直です。

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流動性リスクのもう一つの大きな特徴は、そのリスクは普段は顕在化しないということです。

リスクについて正確に理解していようといよまいと、事故が起こらなけば何事も無なかったように、時が過ぎ、運用が目標に到達してああ、よかったな。で終わります。逆に言えば、顕在化つまり事故が起こらないと、自身が本当はどんな流動性リスクを抱えていたのか思い知ることがないという、大きなジレンマを抱えているのです。

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ですから、流動性リスクのあるファンドは、ビジネスが故にシナリオ分析が最も大事です。仮にこんな状況になったら、こうなるという少々悪いシナリオも幾つか想定した上で、それなら耐えられる、またはビジネスをする以上当然取るべきリスクだろうと判断できれば、そのファンドは購入できるのです。

2月の東京、大阪勉強会でも少し話題にするつもりですが、BrandeauxやMansionなどのイギリス学生寮ファンドについても、幾つかのシナリオ分析をします。

ところで、このような平常時はパフォーマンスが安定した右肩上がりになる、流動性リスクのあるビジネス系ファンドは、実は有象無象業者にとってもありがたい存在です。とりあえず流動性リスクを伏せて説明し、夢見て購入してくれる投資家だけを手当たり次第にセールスすればいいのですから。もっと極端なケースでは有象無象自身がその潜在リスクを読み解くことができず、夢のような商品だと自信をもって販売しまくることもあるようです。

こんな販売手法でいいのでしょうか?はい、いいのです。事故さえ起こらなければ。
まあ、このように運に託す投資手法も確かにアリだとは思います。もっともこの場合、私たちの企画している勉強会に参加不要ですから、その空いた時間をパチンコなど他に有効活用できます。

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では、Glanmore Property Fundにはどんな種類の流動性リスクが顕在化してしまったのでしょうか? 例えファンドのファクト・シートを全く見なくても、上のグラフからリーマン・ショック後のイギリス地価下落によって、時価評価が下がったのだろうと想像、いや、もはや断定できます。

ここで、いくらイギリスやアイルランドが00年代前半は不動産バブルだったからと行って、なにも1/10になったという話しは聞いてないぞ。という読者の方もいらっしゃるでしょう。そう、この疑問を直感したなら、もはや名探偵コナンなみの洞察力です。

では早速、前述の先入観をもってファクト・シートをみてみましょう。
このファンド、商業施設やオフィスビル、レジデンスから、レジャー施設まで合計46の地所をもつ立派な大家さんです。入居率は家賃収入ベースで、93.48%とリーマン・ショック後もかなり頑張っているほうです。

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ちなみにBrandeauxの2012年新学期の学生入居率は96%で過去最低レベルだったと、落ち込んでましたが、それでも96%は凄いですよね。学内にあって地価が物件の価値にあまり影響しないBrandeauxとことなり、Glanmoreは写真からして、地価がファンド資産価値に非常に大きな影響を与えることでしょう。やはり、ファンド価額の下落は地価の下落が主因だと考えることができます。

ならば、なぜ1/10まで下げたのでしょうか?その答えは、ギアリングレシオにありそうです。2012年12月現在のファンドサイズはGBP29Mです。これに対し、銀行借入はGBP298Mです。つまり、ファンドが大きく下げるまでは、おそらくファンドと銀行借入が半々だったのでしょう。そして、不動産ビジネスファンドの基本は時価評価ですから、地価が下落するとファンド全体のバランスシートから固定資産の欄を削らなければなりません。実際のバランスシートを見ても2010年12月時点にGBP714Mと評価されていた固定資産は2012年12月にはGBP578M(うち66Mは売却損切り)まで減少し、ここからさらに2012年5月に大きく損切りをした結果、ファンド価額が1/10まで減少する結果となっています。他方、負債たる銀行借入はメインバンクのRBSが債務免除してくれるわけではありません。いや、投資家にとって、免除はしてもらわない方がいいでしょう。銀行に期限の利益を取られてしまえば、ファンドは破綻です。銀行は第一抵当権をもっているでしょうから、ここでRBSに逃げ切られると、解約停止中の残された投資家は丸裸です。よって、健全なファンド運営を続行するために銀行借入はバランスシートにそのままの金額で残ります。すると貸借対照表の右側を落とした分をすべてファンドからの投資資金が被らなければならなくなります。そう、これが地価下落によってファンド価額が加速度的に下がってしまうカラクリです。

カラクリと書くと不正確かもしれませんね。ギヤリングレシオが半々なところに、時価評価が下がるような要因がぶつかれば、必ずこのような結果となることは、最初からシナリオとして当然想定できる範囲内です。Glanmoreの場合、残念ながらリスクは顕在化しましたが、これは決してダイトンASPのように想定外のリスクが発生したわけではなく、リーマン・ショックによって最悪のシナリオが顕在化したのです。

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最後に投資対象としての検討です。私は申し込んではいませんが、Momentum経由なら販売手数料は無料買えるかもしれません。運用はしっかり続いていますので。ただし、購入すると72ヶ月間クローズになりますから、超長期投資になります。また、RBSは長期設備資金融資から短期の貸越枠で対応していますので、銀行の主導権を握られていることが吉と出るか凶とでるか、住吉大社さんでもわかりません。

ただし、もしGBP400Mという資金を投資できるのなら、このファンドは買いだと思います。この金額があればRBSを追い出せます。NAVの見直しによって既存投資家の資金で十二分に損切りがされていますので、ここで銀行をお役御免にしてギヤリングレシオをゼロに落とし込めればこのファンドが再生する可能性は非常に大きいでしょう。余談です。

結局のところ、やはり、どう考えてもショッピングモールの大家さんファンドがオープンエンド型ファンドで組成するには無理があったということです。ドイツ銀行プライベート・バンク部門さん、最初から6年でもなんでも解約不可期間を設けておくべきだったのはないでしょうかねぇ。


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保有している収益ワンルームマンション、再び満室御礼になりました。大家さんしているとこの時期が一番大切ですからね。一安心です。
個人の不動産オーナーも時価評価できたらいいですよね。この環境なら新築買えばガンガン節税効果がでて、20年後くらいに年収が減った頃、含み益があがってくるというのがシナリオです。今の日本の税制では期待できないので、例えばワンルームマンション1部屋、ファンド総額たった2千万円という一人投資家「マイREIT」なんてどうでしょうね。