リテイル金融ビジネスモデルの致命的欠陥は、銀行や証券会社等の販売会社は、小売店であるがゆえ、投資家サイドに立ってアドバイスをすることはないということです。ここでいうコンサルティングとかアドバイスというのは何のことでしょうか。
簡単に例えれば、ブティックで、お色は何かお好みでしょうか?サイズは?と聞いてくれる店員さんとおなじレベルです。来た客に、うちの商品はあんたの体型に似合わないからここで買うな、と言う店員はいません。

また、一般の小売店に訪問した時の客の構え方を考えてみましょう。
例えば家電量販店に行ってブルーレイについてのアドバイスを受けたとします。
もちろんそれはセールス行為だということを、店員さんも購入者も認識しています。

ところが銀行や証券会社の窓販ではどうでしょう。ライフプラン相談等と称して、極めて投資家サイドに立ったアドバイスをしているようなイメージを抱かせています。
ファンド購入の段になって手数料等コストやリスクの説明は金商法で義務付けられていますので一通りの話はありますが、その手数料がファンド会社の収益になるのか、それとも窓販した販社の収益になるのかは、あまり言いたがりません。

3%とか5%とかの販売手数料は全て窓販した販社の収益です。さらにその収益が窓口の販売員の成功報酬、いわゆるセールスインセンティブの一部に割り当てられます。
この部分を煙にまくことで投資家サイドに立っているような振る舞いができるわけです。

逆にしっかり説明してしまえば、最後になって購入を考え直す投資家も相当いるでしょうね。だってそこで買わなきゃいけない義理もないのに3%だの5%だの払うわけですから。1,000万円の投資を頼むだけで、30万円とか50万円もの手数料を銀行や証券会社に支払うことになります。プラス消費税までも。
普段840円の振込手数料ケチって振込先銀行まで足を運ぶ人が、よくわからないまま50万円も銀行に貢いでいたらそれこそなにをやってるかわかりません。

ちなみにファンド会社の収益源は信託報酬です。一部ファンドには上昇時の成功報酬という体系があります(その場合、ちゃんと明記されます)。
運用してくれている当事者のファンド会社の収益は意外と少ないことがわかります。
ファンド会社が稼ぐ手段は、
ファンドサイズを大きくするよう、特定の売れ筋商品を広告等でうまく作ること。
解約が続いて小さくなったファンドははやくギブアップして投資家に突き返すこと。
になります(スケールメリットを追うこと)。

ここで銀行や証券会社のファンド窓販の体制について話を戻しましょう。
前述の営業員に対するインセンティブ制度が事をさらに悪くしています。
リテイル(個人向け)の場合、顧客と販売員の関係はよく言えば一期一会です。
つまり、ファンドでもなんでも投資商品をはめ込めば終わりです。その次に会う機会があれは、それは乗換勧誘の時です。
もちろん販売員も低い基本給だけじゃやってられないし、成績不振でクビも怖いですから、そりゃもう必死です。
自分の生活か、投資家の成果かどちらか選べと言われれば迷わず前者を選ぶでしょう。
リテイルの場合、次の顧客がいるからです。
テレビや雑誌取材頼みのレストランほどリピータ一を大事にしないのと同じです。

もっともプライベートバンキングの場合は、そうはいきません。
担当者は自分の勤務している会社よりも投資家のことを考えます。なぜなら現勤務先でやり尽くした後、またはコンプライアンス部と喧嘩して転職した時には、そのまま顧客を、次のプライベートバンクに連れていかなければならないからです。

この状況と考えると、結局、銀行証券の窓口レベルの対応となる預かり資産で言うと数百万円から1億円以下の投資家がもっとも割を食うしくみになってきます。
数十万円の顧客が意外と無傷なのは、小さすぎて営業マンに相手にされないため、ネット銀行や証券で自分で頑張るからです。

その点、執拗な勧誘なんて一切ない、海外ファンドはいいですね。自己責任という部分では同じですし、地元金融機関との関係等配慮する必要はないですし。いまのリテイル金融のビジネスモデルが定着している限り数百万円レベルの余裕層は、これからもどんどん海外に目をむけることになるでしょう。